長年勤め上げた会社から受け取る退職金。「2,000万円もらえると聞いたけど、税金で半分くらい持っていかれるのでは?」と不安に感じる方は少なくありません。しかし結論から言えば、退職金は税制上もっとも優遇されている所得のひとつで、勤続年数が長いほど大半が非課税になります。本記事では退職所得控除の仕組みから勤続年数別の手取りシミュレーション、確定拠出年金との合算ルールまでを徹底解説します。

【結論】退職金は退職所得控除で大半が非課税、勤続20年超で大幅優遇

退職金の手取りは、ざっくり以下のロジックで決まります。

  1. 退職所得控除で勤続年数に応じた金額を非課税枠として差し引く
  2. 控除しきれなかった残額の1/2だけが課税対象(退職所得)
  3. 他の所得と合算せず分離課税で所得税・住民税を計算

たとえば勤続35年で退職金2,000万円を受け取る場合、退職所得控除は1,850万円。課税対象は (2,000万円 - 1,850万円) × 1/2 = わずか75万円です。所得税・住民税を合わせても約11万円ほどで、手取りは約1,989万円と退職金の99%が手元に残ります。

退職金は「老後の生活原資」として手厚く保護されている

退職金は給与の後払い的な性格を持つため、税制上特別に優遇されています。長く同じ会社に勤めるほど控除枠が拡大する仕組みは「老後の生活設計を支える」という政策的配慮の表れです。

退職金を受け取った後の生活設計には、まず現役時代の手取りベースを把握しておくのが近道です。

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退職所得控除の計算式(勤続20年が分岐点)

退職所得控除は勤続年数によって計算式が変わります。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超70万円 × (勤続年数 - 20年) + 800万円

勤続年数に1年未満の端数があるときは切り上げで計算します。たとえば勤続19年3か月なら20年として扱います。この「切り上げ」のおかげで、退職日を数か月ずらすだけで控除額が大きく変わるケースもあるため、退職時期は慎重に検討しましょう。

勤続年数別 退職所得控除額の早見表

勤続年数控除額計算根拠
5年200万円40万 × 5
10年400万円40万 × 10
15年600万円40万 × 15
20年800万円40万 × 20
25年1,150万円70万 × 5 + 800万
30年1,500万円70万 × 10 + 800万
35年1,850万円70万 × 15 + 800万
38年2,060万円70万 × 18 + 800万
40年2,200万円70万 × 20 + 800万
20年の壁を1日でも超えれば控除が一気に拡大

勤続19年11か月で退職するか、あと1か月待って20年で退職するかで控除額が変わります(19年11か月→20年に切り上げ後、20年と21年では70万円差)。早期退職を打診された場合は、勤続年数の切り替わり時期を必ず確認してください。

退職金の課税対象額(控除後の1/2)

退職所得控除を超える退職金があった場合、その超過分の1/2だけが課税対象(退職所得)になります。

退職所得 = (退職金 - 退職所得控除) × 1/2

この「1/2課税」は他の所得には存在しない極めて強力な優遇措置です。たとえば控除を1,000万円超過しても、課税されるのは500万円分だけ。さらに分離課税のため、給与所得など他の所得が加算されることもありません。

退職所得に対する所得税は、給与と同じ**累進税率(5〜45%)**が適用されますが、課税ベースが半分なので税負担はかなり軽くなります。住民税は一律10%です。

控除の範囲内なら税金は完全にゼロ

退職金が退職所得控除の枠内に収まる場合、所得税も住民税もまったくかかりません。確定申告も不要です。中小企業の退職金は1,000万円前後が多く、勤続20年以上であれば「ほぼ満額が手取り」になる方が大半です。

勤続年数別 退職金 手取りシミュレーション表

実際にどのくらいの税金が引かれるのか、退職金額×勤続年数のマトリクスで見てみましょう。所得税には復興特別所得税(2.1%)を含めて算出しています。

退職金1,000万円のケース

勤続年数控除額退職所得所得税+復興税住民税手取り
10年400万円300万円約20.5万円30万円約949万円
20年800万円100万円約5.1万円10万円約985万円
25年以上1,150万円〜0円0円0円1,000万円

退職金2,000万円のケース

勤続年数控除額退職所得所得税+復興税住民税手取り
20年800万円600万円約78.4万円60万円約1,862万円
30年1,500万円250万円約15.7万円25万円約1,959万円
35年1,850万円75万円約3.8万円7.5万円約1,989万円
38年2,060万円0円0円0円2,000万円

退職金3,000万円のケース

勤続年数控除額退職所得所得税+復興税住民税手取り
30年1,500万円750万円約110.6万円75万円約2,814万円
38年2,060万円470万円約52.0万円47万円約2,901万円
40年2,200万円400万円約38.0万円40万円約2,922万円

退職金前の最終年収が手取りベースでどの水準だったかも、生活設計の土台になります。

年収500万円の手取り内訳
項目独身配偶者あり
年間手取り380.1万円387.2万円
月間手取り31.7万円32.3万円
社会保険料72.3万円72.3万円
所得税19.0万円15.1万円
住民税28.6万円25.3万円
実効税率23.99%22.55%

※ 東京都在住・30歳・ボーナスなしで試算。概算値のため実際とは異なります。

年収700万円の手取り内訳
項目独身配偶者あり
年間手取り512.9万円523.9万円
月間手取り42.7万円43.7万円
社会保険料104.0万円104.0万円
所得税41.3万円33.5万円
住民税41.9万円38.5万円
実効税率26.73%25.15%

※ 東京都在住・30歳・ボーナスなしで試算。概算値のため実際とは異なります。

退職所得の受給に関する申告書を出すかどうか

退職金を受け取るとき、会社から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求められます。これは退職金の課税方式を決定する重要な書類です。

申告書を提出した場合(推奨)

  • 退職所得控除を適用した正しい税額が源泉徴収される
  • 確定申告不要で課税関係が完結
  • 手取りが最大化される

申告書を提出しなかった場合

  • 退職金額に対して一律**20.42%**が源泉徴収される
  • 控除が一切適用されない暫定的な徴収
  • 翌年の確定申告で精算しないと払いすぎた税金が戻ってこない
申告書は必ず提出を — 提出忘れは数百万円の損失も

たとえば勤続35年・退職金2,000万円のケースで申告書を出し忘れると、約408万円が源泉徴収されます。本来の税額は約11万円なので、確定申告をしなければ約397万円を払いすぎたまま放置することになります。

確定拠出年金(DC・iDeCo)一時金との合算ルール

近年は企業型DC・iDeCoを併用する方が増えていますが、これらを一時金で受け取る場合は退職金と合算扱いになるため注意が必要です。

同じ年に受け取った場合

退職金と確定拠出年金一時金を合算し、1つの退職所得控除で計算します。退職金で控除を使い切っていると、DC一時金には課税対象が発生する可能性があります。

受け取り年をずらした場合

受取間隔退職所得控除の扱い
同年完全合算(控除1つを共有)
1〜4年空ける前回使った控除分が差し引かれる(重複期間ルール)
5年以上空ける(DCを後に受取)別枠の控除が使える
19年以上空ける(退職金を後に受取)別枠の控除が使える
DCを先に・退職金を後に受け取る戦略

60歳でiDeCoを一時金受取 → 65歳で退職金を受け取れば、5年以上のインターバルで控除を二重に活用できます(※2022年税制改正で「19年ルール」が新設されたため、退職金を後に受け取る場合は19年空ける必要があります)。受取順序と年齢設計が手取りを左右します。

短期勤続役員・短期従業員の特例

  • 勤続5年以下の役員等:1/2課税の特例なし(全額が退職所得)
  • 勤続5年以下の従業員:退職所得控除後の300万円超部分は1/2課税なし(2022年改正)

短期間で高額な退職金を受け取る役員報酬の節税封じが目的です。スタートアップ経営者やプロ経営者の方は影響が大きいため事前に税理士へ相談しましょう。

早期退職・定年退職の手取り比較

定年(60歳または65歳)まで勤め上げるのと早期退職するのでは、手取りに大きな差が生まれます。

ケーススタディ:勤続30年・退職金2,500万円 vs 勤続35年・退職金3,000万円

項目早期退職(55歳)定年退職(60歳)
勤続年数30年35年
退職金2,500万円3,000万円
退職所得控除1,500万円1,850万円
退職所得500万円575万円
所得税+復興税約57.2万円約72.6万円
住民税50万円57.5万円
手取り約2,393万円約2,870万円

差額は約477万円。さらに早期退職は5年間の給与所得(仮に年収700万円×5年=3,500万円・手取りベースで約2,650万円)も失うため、トータルでは3,000万円以上の差が生まれる計算です。

早期退職割増金は本当に得か?必ずシミュレーションを

早期退職優遇制度で「退職金を500万円割増」と提案されても、5年間の給与・退職金控除の追加分・社会保険料を含めると総額で見劣りすることが大半です。提示された条件は必ず手取りベースで現役継続と比較してください。

退職金を分散受取する選択肢

退職金は一括受取以外にも、年金形式で分割して受け取る選択肢があります。会社の退職金規程やDC・企業年金の設計によりますが、以下のような特徴があります。

受取方法課税区分メリットデメリット
一時金退職所得退職所得控除+1/2課税で大幅優遇現金管理が必要
年金(分割)雑所得(公的年金等)公的年金等控除が適用在職老齢年金との調整あり
併用一部退職所得+一部雑所得控除を両方活用設計が複雑
年金受取は社会保険料に注意

年金形式で受け取ると、その金額に応じて翌年の国民健康保険料・介護保険料が増えます。一時金なら退職所得は社会保険料の対象外。手取り最大化を狙うなら一時金優位のケースが多いですが、運用力に自信がない方は分散受取で計画的に消費する方法も合理的です。

FAQ

Q1. 勤続年数は1日でも超えれば次の年でカウントされる?

A. はい。退職所得控除の勤続年数は1年未満の端数を切り上げます。19年1日でも20年として扱います。退職日設定で控除額を最大化できる重要なポイントです。

Q2. 同じ年に2社から退職金を受け取った場合は?

A. 2社の退職金を合算し、1つの退職所得控除で計算します。勤続期間が重なる場合は重複期間を控除する調整が必要です。詳細は国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」を参照してください。

Q3. 退職金にも社会保険料はかかる?

A. かかりません。退職所得は社会保険料の算定対象外です。給与のように健康保険・厚生年金が天引きされることはありません。

Q4. 失業保険(基本手当)は退職金に影響する?

A. 退職金の有無は失業保険の支給額に影響しません。ただし退職金の額が大きくても失業保険は満額受給できます。

Q5. 退職金で住宅ローンを一括返済すべき?

A. 一概には言えません。住宅ローン控除(年末残高×0.7%)が残っているうちは、低金利の住宅ローンを返さずに資産運用に回す方が有利な場合もあります。手取り全体の最適化は専門家への相談がおすすめです。

まとめ

  • 退職金は退職所得控除+1/2課税+分離課税の三重優遇で大半が非課税
  • 控除額は勤続20年が分岐点(20年以下:40万×年数、20年超:70万×超過+800万)
  • 退職所得の受給に関する申告書を必ず提出して源泉徴収のみで完結させる
  • 確定拠出年金一時金との受取年ずらし戦略で控除を二重活用できる
  • 早期退職割増金は手取りベースで必ず定年継続と比較する
  • 一時金受取は社会保険料の対象外、年金受取は公的年金等控除+社会保険料増

退職金は人生最大級の収入機会です。受取設計を1年早めるか遅らせるかで数百万円の手取り差が生まれます。退職前年の年収から退職後の生活設計まで、シミュレーターで具体的な数字を確認してから判断しましょう。

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出典

  • 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき」
  • 国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」

免責事項 本記事は2026年4月時点の税制・社会保険制度に基づく一般的な情報提供です。個別の税額・手取り額は勤続年数・退職時期・他の所得状況により異なります。実際の手続きや具体的な税額計算については、所轄税務署または税理士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。本記事の情報に基づく判断・行動の結果について、当サイトは責任を負いかねます。