定年退職を控えた方やすでに年金を受給している方にとって、最大の関心事は「結局いくら手元に残るのか」です。年金には公的年金等控除という大きな控除枠があり、給与とは異なる手取り計算ロジックが適用されます。

この記事では、年金受給後の手取りを公的年金等控除・在職老齢年金・繰下げ受給の3つの観点から整理し、働きながら受給する場合の最適化まで解説します。


【結論】年金は公的年金等控除で大半が非課税、給与と合算しても税負担は軽い

  • 65歳以上は年金収入330万円まで110万円が控除
  • 年金収入だけなら年158万円まで所得税ゼロ
  • 在職老齢年金の支給停止基準は月51万円(2025年度)

「年金は引かれて当然」というイメージは誤解で、現役時代より大幅に税負担は軽くなります。一方、介護保険料・後期高齢者医療保険料が天引きされる点には注意が必要です。

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公的年金等控除の仕組み(65歳未満・以上で控除額が異なる)

年金収入は税法上「雑所得」ですが、給与所得控除と同様の「公的年金等控除」があります。

65歳以上の控除額

公的年金収入控除額
〜330万円110万円
330万円〜410万円収入×25%+27.5万円
410万円〜770万円収入×15%+68.5万円
770万円〜1,000万円収入×5%+145.5万円
1,000万円超195.5万円(上限)

基礎控除48万円と合わせると、年金収入158万円までは所得税0円です。

65歳未満の控除額

130万円までは60万円控除(65歳以上の110万円より50万円少ない)。

注意

64歳と65歳で控除額が50万円変わります。特別支給の老齢厚生年金や繰上げ受給を検討する際は注意してください。


在職老齢年金の基本(月50万円超で減額調整)

結論は「もらえるが、給与+年金が月50万円超で一部支給停止」です。

支給停止の計算式

支給停止額(月額) = (基本月額 + 総報酬月額相当額 − 支給停止調整額) ÷ 2
  • 基本月額: 老齢厚生年金(月額換算、加給年金除く)
  • 総報酬月額相当額: 標準報酬月額 + 直近1年の標準賞与額 ÷ 12
  • 支給停止調整額: 2024年度50万円、2025年度以降51万円

老齢基礎年金(国民年金)は調整対象外で、調整されるのは厚生年金部分のみです。

計算例(2025年度・調整額51万円基準、基本月額10万円の場合)

給与月額合計支給停止受給額
40万円50万円0円月10万円
50万円60万円4.5万円月5.5万円
60万円70万円9.5万円月0.5万円
注意

停止された厚生年金は完全にもらい逃しとなり、後から戻りません。給与水準のコントロールが鍵です。


年金 + 給与のダブル収入時の手取りシミュレーション

「年金 + 給与」で働く場合の手取りを、給与の年収換算手取り表を参考に確認します。

年金月10万円 + 給与年収200万円

年収200万円の手取り内訳
項目独身配偶者あり
年間手取り167.8万円169.6万円
月間手取り14.0万円14.1万円
社会保険料29.9万円29.9万円
所得税0.4万円0.0万円
住民税1.9万円0.5万円
実効税率16.08%15.22%

※ 東京都在住・30歳・ボーナスなしで試算。概算値のため実際とは異なります。

この上に年金120万円が加わります。年金部分は公的年金等控除110万円・基礎控除48万円でほぼ非課税となり、年金120万円はほぼ手取り化します。

年金月15万円 + 給与年収300万円

年収300万円の手取り内訳
項目独身配偶者あり
年間手取り242.8万円248.0万円
月間手取り20.2万円20.7万円
社会保険料45.8万円45.8万円
所得税3.5万円1.5万円
住民税8.0万円4.7万円
実効税率19.07%17.33%

※ 東京都在住・30歳・ボーナスなしで試算。概算値のため実際とは異なります。

この上に年金180万円が加わります。給与+年金=月40万円で在職老齢年金の調整対象外。年金の追加税負担は5〜10万円程度に収まります。

年金月15万円 + 給与年収500万円(在職老齢年金が発動)

年収500万円の手取り内訳
項目独身配偶者あり
年間手取り380.1万円387.2万円
月間手取り31.7万円32.3万円
社会保険料72.3万円72.3万円
所得税19.0万円15.1万円
住民税28.6万円25.3万円
実効税率23.99%22.55%

※ 東京都在住・30歳・ボーナスなしで試算。概算値のため実際とは異なります。

給与月41万円 + 年金月15万円 = 56万円で支給停止調整が発動。支給停止額 (15 + 41 − 51) ÷ 2 = 2.5万円/月(年30万円)→ 実際の年金は月12.5万円(年150万円)。

合計手取り率は給与単独で650万円稼ぐより5〜7%高くなります。


繰下げ受給で増える年金額(最大84%増)

年金受給は原則65歳ですが、繰下げで増額、繰上げで減額となります。

  • 繰下げ: 1ヶ月0.7%増額、最大75歳まで(10年で84%増
  • 繰上げ: 1ヶ月0.4%減額、最大60歳まで(5年で24%減、生涯固定)
受給開始増減率月額10万円→
60歳-24.0%7.6万円
65歳±0%10万円
70歳+42.0%14.2万円
75歳+84.0%18.4万円

損益分岐点は、70歳繰下げで約82歳、75歳繰下げで約87歳。平均寿命(男性81歳・女性87歳)と比較すると、健康で長生きする見込みなら繰下げが合理的です。

注意

繰上げ請求は取消し不可・生涯減額固定です。慎重に判断してください。


介護保険料・後期高齢者医療保険料の天引き

年金生活の手取りを左右する要因が社会保険料の特別徴収です。

  • 介護保険料(65歳以降): 年金から天引き。東京都区部で年6〜10万円程度。年金年18万円未満は普通徴収
  • 後期高齢者医療保険料(75歳以降): 所得に応じ年4〜18万円程度
  • 国民健康保険料(65〜74歳): 65歳以降は年金天引き可能
注意

年金額面 - 介護保険料 - 後期高齢者医療保険料 - 所得税 - 住民税 = 振込額。「月15万円もらえるはず」が12万円程度に下がるのはこれらの天引きが原因です。


確定申告不要制度の対象者

事務負担軽減のため確定申告不要制度があります。両方を満たす場合に対象:

  1. 公的年金等収入が年400万円以下
  2. 公的年金等以外の所得が年20万円以下

医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税)等を受けたい場合は確定申告すれば還付されます。なおワンストップ特例は確定申告すると無効になるため、医療費控除と併用する年はふるさと納税分もまとめて確定申告してください。


年金生活者の節税ポイント

  • iDeCo活用: 65歳まで拠出可能。再雇用で厚生年金加入中なら月2.3万円まで全額所得控除
  • 医療費控除: 世帯合算で年10万円超で対象。家族分をまとめて世帯主が申告すると還付効率が高い
  • 配偶者控除: 配偶者の年金収入が158万円以下(65歳以上)なら配偶者控除38万円の対象
  • 退職金との組み合わせ: 退職した年に繰下げ年金を受給開始すると課税分散できる

退職金の手取り計算は退職金の手取り解説記事を参照。退職所得控除が大きく、税負担は軽い方です。


FAQ

Q1. 年金200万円から所得税はどれくらい引かれますか? 65歳以上なら課税所得は約42万円→所得税約2.1万円、住民税約4.2万円。手取り190万円程度が目安(介護保険料天引き前)。

Q2. 在職老齢年金で停止された分は後から戻りますか? 戻りません。ただし在職中の保険料は将来の年金額に反映(在職定時改定)されます。

Q3. 遺族年金は手取りにどう影響しますか? 遺族年金は非課税で所得税・住民税の対象外。ただし国保料・介護保険料の算定基礎には含まれる場合があるため自治体に確認してください。

Q4. 個人年金保険の受取額も公的年金等控除の対象ですか? 対象外です。「雑所得(その他)」または「一時所得」に分類され、控除は使えません。「年金額 − 払込保険料」が課税対象です。


まとめ

  • 公的年金等控除: 65歳以上110万円、64歳以下60万円。年金単独なら年158万円まで所得税0円
  • 在職老齢年金: 給与+年金が月51万円超で超過分の半額が支給停止
  • 繰下げ受給: 1ヶ月0.7%増、最大75歳で84%増。長生き前提なら有利
  • 天引き保険料: 介護・後期高齢者医療保険料は年金から特別徴収
  • 確定申告不要制度: 年金400万円以下+他所得20万円以下なら不要

「働きながら年金を受け取ると損」というのは誤解で、月51万円基準を超えなければ満額もらえます。退職金・iDeCo・繰下げ受給を組み合わせれば手取りを大きく改善できます。

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注意

免責事項: 本記事は2026年4月時点の制度・税率に基づき、一般的な情報提供を目的としています。個別の税務・年金相談は税理士または年金事務所・社会保険労務士にご相談ください。在職老齢年金の支給停止調整額・公的年金等控除の控除額は法改正で変更される可能性があります。最新情報は日本年金機構・国税庁の公式サイトをご確認ください。